ミラノ会議の会長、もしくは議長の発言について

 開会の挨拶では、イタリア側の主催者が 「生きた発話こそが人類の特権であり、思考の唯一確実な伝達手段、神からの贈り物であることを忘れてはいけません。『発話は神の発露である。魂は思考の発露である』ことが真に示されています。」と語っています。

 この会議の会長もしくは議長は、熱狂的な口話主義者であったジュリオ・タラという人物であった。 タラが発言した内容について、いくつか書きます。 「発話の王国では、女王はライバルの存在を許さない。発話は嫉妬深く、自分が絶対の支配者であろうとする。審判のためにソロモン王の前に出た、子供の本当の母親のように、発話は全てを自分のものにしようとする。教育、学校、ろうあ者全てを。分かち合おうとはしないのである。さもなくば、全てを放棄してしまう……私の生徒は不完全な手話単語を少し知っているだけだ。それは、存在してはならない組織の痕跡、一貫性がなく、魂を十分に養うことが決してないパンくずである。」

「口頭の発話は、神が人間に息を吹き込んだ光が再度輝くようにすることができる唯一の力である。神が人間の肉体に魂を与えたとき、神は理解、想像、自分自身の表現の手段を人間に与えたもうた…・…手まねは思考を完全に表現するには足りない一方で、空想と想像力全体を強め、賛美する……手話の空想的言語は感覚を刺激し、情熱をあおる。しかし、発話は精神をもっと自然に高みに静かに、思慮深く、真実をもって導く。」

「いかなる形、いかなるイメージ、いかなるデザインもこうした考えを再現することはできない。神聖である発話だけが神聖なことを語る正しい方法である。」

 手話の短所ばかり指摘し、口話の長所を徹底的に強調していた事がわかります。これでは、公平な会議ではなく、口話主義者が一方的に進めた会議であった。


出典・参考文献

【聾の経験 18世紀における手話の「発見」】

【善意の仮面 聴能主義とろう文化の闘い】